喝采鳴りやまず、ふたたび--------CD-2/THE CONCERT

＜I Was The One＞

Heartbreak Hotel／One Night／Blue Suede Shoes／All Shook Up／Little Sister／ I Was The One
／ Love Meなど若かりし日の名曲が続々と登場する。
この中でも初めてCDに登場したのが懐かしのロカ・バラード＜I Was The One＞

途中で笑っているところがあるが、この瞬間がすごくいい。
社会現象となったあの喧噪の時代を思い出しているのかも。
「何も変わっていないようだけど、ずべてが変わった。」ことが響いてくる。

ここで聴かれる ＜I Was The One＞はあのエコーが効いた哀愁を帯びた刹那さが胸うつ＜I Was The One＞とは違う。
声域がその時代と違う。ヤング・エルヴィスにあったものがここにはない。ある必然もない。



光り輝く1956年のドキュメント・ビデオ『ELVIS'56』にメンフィス郊外で電車から降りる写真が収録されている。
エルヴィスの人生で一番幸せだった時期だったと思える写真。
線路沿いの道端で手をふるエルヴィス。素朴で人なっつこく希望に満ちている。まだ世間知らずの青年といった印象。

公民権運動、ケネディ暗殺、ベトナム戦争、石油ショックなど歴史の扉をいくつも開いて15年以上の時が過ぎているのだから当然。

そして「何も変わっていないようだけど、ずべてが変わった。」ことを自信に満ちたパフォーマンスによって証明する。
身体の奥からしぼりだすように歌うことで、座標軸が変わったことを明らかにする。エルヴィスの最大の武器は「声」であることは変わりがない。

＜Polk Salad Annie＞

『33週目のおすすめ』でもおすすめしたけれど、まだおすすめは続いている。
『あの「ポーク！」ドン、「サラダ！」ダンダン、のところなど-----』と掲示板にも寄せられているように、素晴らしいノリのいいパフォーマンスは飽きることがない。

＜Sweet Caroline＞

この曲はフランク・シナトラも歌っている。そちらも渋いものだが、エルヴィスは全身をバネのように使って力一杯に愛の歓びを伝えている。 ＜ON STAGE 70＞にも収録されているが、こちらのほうが断然いい。
力のあるラブ・ソング。
ラブ・ソングというカテゴリーに封じ込めてしまうにあまりにも大きな歓びと、人に宿っている最良の精神に満ちた温かさが躍動感を伴って素晴らしい。言葉を超えた存在そのもので表現する力、ピュアな精神がかもし出す「生きる歓び」は悲しみに打ちひしがれたこころにも届き、支えるはずだ。

考えてみれば、このCDは一曲一曲がどうということではなく、例えば＜Sweet Caroline＞の前には＜Just Pretend＞＜ There Goes My Everything＞があり、それらに宿る「想い」が伏線としてあって＜Sweet Caroline＞をより引き立てている。
これはミケランジェロが壁画を描いたように、エルヴィスが奏でる壮大な絵巻物のようだ。
そこに描かれた絵がどう見えるかは受け手のまなざしによる。